レポートTOP

東京財団政策懇談会「ニセ議会基本条例を斬るU」

 

平成22年1月25日 東京都内

登壇者 福嶋浩彦 東京財団上席研究員 前我孫子市長

    木下敏之 同   上席研究員 前佐賀市長

    中尾 修 同   研究員   前栗山町議会事務局長

 

 

 

 

 

 

 

会議の概要

(以下、文責は内田にあります)

 

1 東京財団会長あいさつ

 

・本日の会議に300人が参加。バッジをつけた方も多く、関心の高さを感じる。

・国の行政刷新会議がスタート。事業仕分けに携わった。予算編成の重要なプロセスと認識。財源確保のためというより、執行のチェック、決算のチェックの意義は大きい。例えると、子ども読書への予算は誰も不要とは思わない。そのための数十億がちゃんと使われているか、使われ方をチェックする意義があるのであって、趣旨そのものを否定しているのではない。が、残念ながらそのことが正確に伝わらなかった。

・「何の権限があって仕分けをするのか」との批判もあったが、当たらない。現場に詳しい人に来てもらって「こんな使われ方がされている」というのはいいことだ。権限というなら政治家こそその権限の人だと思う。今まで何をやっていたのか、と言いたい。誰が去年のカネをチェックし、来年に活かしているのか? やるべき人がやっていないのではないのか?

・さてそれと同じことが議会基本条例にも言える。議会を「何とかしなくては」と思っている人が、今日、集っている。その手法のひとつが「基本条例」だ。

・東京財団もこれまで医療、金融…といろいろな提言をしてきたが、これから大事なのは「地方」だ。全国津々浦々が元気で満足な状況を作らないといけない。

・東京の会社だけが元気でうまくやっていても日本が繁栄していることにはならない。全国一律の「キマリ」を廃し、当事者意識を持つ人をどれだけ作れるかがポイントだ。「すべてを地方から考えていく」時代だ。カネを国から取ってくるのでなく、自ら生み出すのが「分権」だ。「国が配る」仕組みを整理していく。ここで大事なのが議会だ。

・地方議会議員の給料は世界最高レベルだ。英仏では年間数十万〜百万未満だ。それはむしろ自治会代表という性格に近い。議会に出たときだけ手当が出るという仕組みだ。さまざまであり、必要な専門家議員には正当なカネを払うなど、日本の自治体議会も地方によってバラエティがあってよい。

 

2 各員からのコメント

 

○木下 改革派首長の「スーパースター」時代が終わり、問題意識が下降気味だ。

    国民はまだまだ「水戸黄門」を待ち望む。それではいけない。そこで議会基本条

   例というものが登場。普及が進んでいるが、その中には内容が疑問視されるものも

   見受けられる。「アクセサリー条例」であってはいけない。そのために3つの要件を

   示す。@議会報告会が持たれている A請願・陳情者の意見陳述の機会が確保され

   ている B議員間の自由討議が確保されている 特に@とAが重要。

    ITの時代となり、今のままでは議会は不要に。住民の声は直接聴けるようにな

   り、間接民主制度が不要の時代になりつつある。そこで住民と議会が向き合う場が

   何をおいても必要だ。「住民の声を聴く」これが一番大事。

    ポイント@議会基本条例制定過程に市民の参加をぜひ。過程で住民不在なら、で

         きてからも住民不在。そんな条例を市民が認めるのか?

    ポイントA議長の選出方法の公開

    ポイントB議会事務局の充実。執行部からの派遣をやめ、議員のために働く職員

         が必要だ。広域などで共同して採用してはどうか。

 

○中尾 全国の議会基本条例を分析、一部現地調査をした。広がることに期待するが、3

   要件をクリアしてほしい。

    現状、制定しているのは町村27、県10、市47(うち政令2) 計84

    統一選挙までに200を超えるか?

    昨年6月16日「地方制度調査会」に議会基本条例の言葉が登場、「期待する」と

   表記された。それは政府機関が正式にこれを認知したことを意味する。

    先行の栗山町や三重県のモデルは「フルセット」だった。以降、会津若松市のよ

   うに市民との対話に特化したスタイルが登場している。

    人口12万。いま会津若松市がいちばん勢いがある。年に2回、市民と向き合う。

   常任委員会に格上げしている。

    人口4千人。北海道福島町。情報公開が上手。議会報告会がすばらしい条例。

    現職教育委員会委員の人事案件を否決したところ。

    大分市。市街地で「幟旗」をあげ、議員2名が立ち、「意見交換会」に市民を呼び

   込む。ティッシュを配り「ここです」と周知啓発。

    以上に共通しているのは「議員と事務局職員の連携が密」であること。「チーム議

   会」として動いている。議会改革がうまくいくのは「チーム性」だ。

    議員間の討議は絶対に必要だ。

 

○福嶋 国会議員と地方議員は代表である点では同じだが、国会議員はリコールできない。

   市長と地方議員はリコールでき、市議会解散を市民ができる。地方住民は直接権力

   を行使することができるようになっている。国会議員は純然たる間接民主制での代

   表者であるのに対し、地方議員は「限定的な代表者」だ。いわば地方議員は「公共

   的意思の代行者」である。

    いわば議員は「クビになる存在」だ。ならば市民と意見を交わして、常に合意を

   形成してやっていく存在だ。

    日本の地方議会は、直接民主主義をベースに間接民主主義を組み入れている制度

   だ。国会議員と地方議員は異なる。なのに「勝手に国会議員になるな」。

    議員は「意思決定機関」だ。だからこそ二元代表制とされる。チェック機関で終

   るなら、二元制でなく「1.5元制」だ。意思決定機関と執行機関が分業している、

   と考えるべき。

    合議制なら議員間の討論は必須だ。チェック機関というなら個別議員の判断でO

   Kだが。

 


レポートTOP

3 ディスカッション

 

(ここから挙手で発言がなされたが、市名が聞きとれなかったものもあり、また差し支えに配慮し、ここでは市名を挙げないことにする。内田)

 

○ある議員 どうやって住民と議会の関係を作るかに苦心した。「今のままでいい」という

     議員が半分だ。全員一致での制定とはならなかった。

      制定特別委員会では委員長が質問攻めだった。(1/1施行)「議会報告やり

     ません」というのが99%というムードだったが、義務規定にした。また陳情・

     請願者の意見は趣旨説明できることにした。

○ある議員 制定へ、特別委員会を作った。

      市民との懇談会では、ごく一部の人が活発に発言している。そのような一部

     の人の意見でも、何としても聴かなくてはならないものか?

○福嶋意見 その必要は一切ない。意見を言いたい人が誰でも言えるのがよいが、反対派

     が議会とぶつかることも市民参加ではあり得る。いちばん多く言う人が市民全

     体なのではない。発言を絶対に実現しなければならないのではない。「違う」と

     いうのなら徹底した説明を。

○中尾意見 関心のある人が集まる傾向はどこにもある。政策を創りあげるための「篩(ふ

     るい)にかける作業だ。

○ある議員 議員間自由討議の方法は? そこで今、迷っている。

○中尾意見 討論の前であること。議員が案を出す・首長案を修正する・議長の発意の場

     合、必ず自由討議が必要となる。

○福嶋意見 自由討議は自由討議だ。どこでもやっている。生徒会でもやっている。難し

     く考えないで。今の議会はそれを「やらない」ルールに縛られている。それを

     取っ払うことだ。

○中尾意見 本会議での自由討議はどこか「しまらない」が、すべての議案でなくていい。

      首長提案のものに対してはぎくしゃくする。しかし議会提案のものに対して

     は、討議は必然だ。

○福嶋意見 世の中の合議制の機関はどこでもやっているから参考にしては。

○ある議員 「ニセ」というのはどの部分を言うのか? わかりにくいものを作るべきで

     ないと思うが、隣接する○○町のものは長く、市民が分からないものだ。

○中尾意見 市民にわからないものはダメだ。市民が「わかりにくい」と発言できるしく

     みが前提だ。志木市を参考に。

○福嶋意見 わかりやすさは大前提だ。わからないと話にならない。市民と議会の契約だ。

     それ以上に、市民からの「義務付け」だ。

○木下意見 市民参加が進まない議会基本条例を「ニセ」と言う。前述の3条項が欠けた

     ものは「ニセ」。

○ある議員 今までパブリックコメント程度だったから、市民参加がとても難しく感じる。

○中尾意見 経験値がないから難しいというのもわかる。が、議会基本条例制定委員会そ

     のものが公開されてないなんて、全国でもめずらしい。議会のためでなく市民

     のために作るのだということを忘れず。

○福嶋意見 請願・陳情者が説明できるのがまず1ステップ。出した人が自分で説明し、

     議員と議論できる仕組みをまず。

      例を示すと、市長の提出に市民が反対する請願が出たとする。議会と市民が

     話し合える、よい場所になるのではないか?

○ある議員 制定検討会を立ち上げようとしているが、国では民主党が大改革をするらし

     い。28次地方制度調査会で議員定数の法定も撤廃が出された。そこで地方が

     基本条例を提出するタイミングは?

○中尾意見 国の流れは二の次だ。動向は気になるが、だからこそ地方が決定を。しっか

     りリードをすべき。

○福嶋意見 分権が進むから地方がしっかりしなければならない、というのは逆立ちした

     考えだ。地方をよくするために自治が必要、それだから分権を求めていく、と

     いうのが正しい考えだ。

○木下意見 栗山町の例は、実際の活動が先行し、それを条例化したものだった。なるほ

     どなと思った。

○ある議員 基本条例制定反対の議員7人で今日は参加している。市民との意見交換会は

     市民からの要望ばかりになるのではと思っていたが意外と健全だった。こちら

     の意見も聴いてくれる会だった。

○中尾意見 栗山町では条例を3回改正している。初制定イコール完成ではない。例えば

     住民投票条例の改正を行い、投票条項を加えた。

○ある議員 H17年に合併し5年を経過。議会を改革しようとしている。が、政令で入

     札1億5千万で議会の議決を要するなど国からの縛りが多いのではなかろうか。

     今後どうなるのか?

      対話集会は陳情・要望の場になりがちだ。市長は受けられようが私たち議員

     は予算を持ってないのだから「頼りない」とか返事に時間がかかるとか、心配

     だ。

○中尾意見 5千万にしようと思えばできる。それを調べないのがいけない。また議員は

     市長より、よほど市民から愛されている。心配ない。

○福嶋意見 縛りは改革できる。

      住民との対話では市長に頼んだほうが早い。けれど市は執行権を持っている

     が議決するのは議会なのだから、本来、市長でなく議員に言うのが本筋だ。栗

     山町では実際に、町長のところには来なくなった。

○ある議員 議会事務局職員を「共同で雇う」とは、具体的には?

○中尾意見 現実には、ない。でも議会事務局職員は現状では市長の「回し者」だ。

○福嶋意見 共同で採用試験をやっているところではやりやすいのではないか?例えば東

     京23区は共同で採用試験をやっている。そのワクを23から24に増やせば

     よい。

○ある議員 二元代表制は難しい。

○木下意見 GHQの制定背景がある。やっていくしかない。

○中尾意見 議論をして結論を導き出す作業が、日本人は得意でない。「あ・うん」でなく

     議論のスキル上達で結論を出すことに慣れていく必要がある。

○福嶋意見 政党政治は、地方では機能していない。国政ですら、政党制は十分機能して

     いない。地方はなおさらだ。だからこそいいのではないか?

      「議会のチカラ」。真に意思決定機関として機能すれば本当に強い。今はそう

     ではなく議員個々の動きだ。それでは市長が強くなる。議会を意思決定機関と

     して機能させよう。

      市長は市民参加をやっている。議会はそれもやってない。それでは弱い。

      例えば外務省は、外の情報が不可欠なところ。これと異なり自治体の情報は

     一人ひとりの市民の「顔」が見えるものだ。市長は市民の情報を持つことなく

     判断する。私自身、市長時代、怖かった。それを議会がやったら圧倒的に勝つ。

     それを持てないところに議会の今の弱さがあるのでは?

○ある議員 会派制と自由討議との両立は可能か? 栗山町には会派がない。会派の中で

     拘束されて、会派は一つの意見になるはず。「会派の脚本」となり、議員個々人

     の意見がどうなのかはわからないのでは?

○中尾意見 会派は自由討議のハードルになっている。しかし市民は、議員を会派で選ん

     でいるのではない。会派内での話し合いも公開制に。議会は決定結果より議論

     過程を大切に。

○福嶋意見 政令市は選挙区選挙だから政党選挙のカラーが強い。一般市は大選挙区選挙

     だから個々の議員を選んでいる。一般市では、会派で縛るのはおかしい。

○ある市民 いくつかの自治体の基本条例を読んだが、市民との接触の頻度を書いていな

     い、あるいは義務付けてないケースも多い。これを「○」と評定しているが、

     実際には「△」とすべきではないのか?

○木下意見 「◎」印のが本当にあるべきものだが、さりとてそれ以外でも努力はしてい

     るものがある。「◎」印以外はすべて「ニセ」とは言いにくい。

○中尾意見 基本条例の制定議論で初めて自由討議をした、というケースも多かった。こ

     れだけでも大きなエネルギーだったと思う。これからの広がりに期待したい。

○ある議員 反問権についてどう考える?

○福嶋意見 大事なのはまちがいない。ベスト3には入らなかったが、反問権とともに賛

     否の公開も大事なものだ。ちなみに私の市長時代には、反問権がなかったが、

     反問していました。

○ある議員 議会改革特別委員会委員5人で参加した。議長選出方法公開と言うが、なぜ

     議長が1期4年なのか? また「統制できる人」とは?

○中尾意見 本来4年なのではないのか? 安定して改革を進めるために。

○福嶋意見 伊賀市の例。議長がマニフェストを発表し、選挙。いわゆる「恩を売られて

     議長になる」のと正反対だ。辞職するときの「一身上の都合」というのは内容

     を明示せよ。「いっぱい後ろにいるから」とか(笑)。

○ある議員 ウチの条例は「アクセサリー」か? 理念条例で良いではないか。実際の議

     員の合意が得られない。具体に盛り込まなければニセだとは、言えないのでは

     ないか。

○中尾意見 ある市で「ウチはやっているから条例に盛り込まなかった」という声もあっ

     た。すると、代が替わればやめるかも知れない、とも言える。

      市民が分かるのがベスト。条例にはないが規程には入れてある、というが、

     それで市民から見えるのか?

○福嶋意見 理念というが、「自治の理念」以上の理念があるのか?

      議会基本条例は「市民が議会を縛るもの」。憲法が、「国民が権力を縛るもの」

     なのと同様だ。

○ある議員 長期行政計画を議決事項とするなど、議決権の拡大は良いことか?

○福嶋意見 議決権の拡大は良いが、大事なのは、議会の市長に対する権限拡大ではなく

     て、市民の、議会に対する権限拡大が本来だ。市民の権限強化がまずあり、そ

     のために市議会の権限強化がある。

      長期行政計画を議決事項とするのはいいが、取引に使わないように。

      そもそも、自治体は自分で解釈をしていいことを忘れないように。違う解釈

     をしていたら国が言ってくる、という仕組みになっている。でも実際はあいか

     わらず「省庁問合せ」をやっている。

○ある議員 議会改革検討委員会も今年2年目。議運以外はすべて公開、ネット公開、議

     会だより、ケーブル放送もやっている。それなのになぜ「出向いて市民と意見

     交換」が必要なのか? 市民の意見を聴くことは常日頃、議員個々人が議員活

     動としてやっている。そして議会に反映させている。

○福嶋意見 議会として聴かなくても議員として聴いているからいい、というのはこれま

     での伝統的な手法だ。でもそれは議員の都合だ。

      市民は支持している議員を通してしか意見を言えないのか? 私は全部の議

     員に言いたい、全議員と意見交換したい、この要求を実現するために、議会は

     「機関」としてやらないといけない。例えば議会だよりに、議決までの「プロ

     セス」を書いてあるのか? 決定者として、責任ある態度を。

○同じ議員 「出向いて」というところにわだかまりがある。出向けば個々議員の意見も

     入りがちだ。逆効果も心配だ。

○福嶋意見 議会報告会は議員報告会ではない。議会報告会のためには徹底的に議員間討

     議を経ないと難しい。「私は反対したけれど議会は賛成した」という説明になる。

○同じ議員 生中継もやろうとしているのに、それでも「出向く」ことが必要か?

○木下意見 議員とのつながりがないサラリーマンなどは意見を言う機会がない。意見を

     言うチャンスの確保は大事だ。

○福嶋意見 議員につながりがない人は多い。言いたいことのある人はどうすればいいの

     か? 言いたい人は「来い」ということになるのか?

○中尾意見 「言いたい人は来い」は違う。議会は「機関」として試されている。市長は

     人気が必要で、市民の意見を聴く。対峙する議会は民意を汲み取る仕組みで、

     劣る。

 

感想

 

議会基本条例制定の波がひたひたと押し寄せ、昨年には宇多津町、観音寺市も制定を見ました。私個人は議員経歴10年を超え、この条例制定がもはや押し戻すことのできない時代の潮流であることを認識しています。でもそれが本市議会では実現しない。理由は、私が提言しないから、と言われてもいたしかたないとも、認識しております。

席上、さまざまな声が、参加者から上がりました。「趣旨はもっともだが現実には」という声に、共感しつつ、拝聴しました。しかし「到底、同僚議員から賛同を得られない」との消極的な姿勢は、言い出す前の臆病、私の逃げ口上とされてもしかたがないと思います。

以前、議会のあり方検討会の開催を、議長に申し入れたことがあります。私のホームページにも掲載してあります。ですが現実にその会が開かれることはありませんでした。

今回、この会合への参加を契機に、再度、この出張報告を添付して、議員各位に新たな形で、呼びかけたいと思います。

「議会基本条例は、市民が議会をコントロールするための仕組みである」

「言いたい人は来い、でなく、議会が議員としてではなく機関として、出向くこと」

「議会が字義通り、『議論をするところ』として機能するためのツール」

「議会がチェック機関だけの機能なら、日本の自治は二元制でなく1.5元制」

これらのキーワードを胸に、新年度、先輩・同僚議員に呼びかけ、議論の端緒を開いていきたいと思います。

レポートTOP

                                    以上